障害物

2025年9月号 地中障害物

 我が国のインフラ整備は1964年の東京オリンピックを契機に本格化し、新幹線や高速道路などが整備されました。それと並行して都市部上下水道などの地下インフラも整備されていきます。また地上の一般道路整備に伴い国内の自動車保有数は飛躍的に増大し、慢性的な交通渋滞が発生しています。このような時代背景に推進工法が登場します。それまでは開削工法が主体で、推進工法は鉄道や河川の横断など一部での採用となっていました。しかし、交通渋滞による大気汚染や社会的経済損失、また浅いところは開削工法で整備済みで輻輳しているためより深い深度にインフラ管路を埋設する必要性が発生してきました。そこで一般道の地下も推進工法で管路構築するようになり、ニーズが一気に増加します。
 1948年に国内で最初に推進工法が施工されましたが、当初は開放型刃口式推進のみで、線形は直線、適用可能な土質や推進延長に制限がありました。その後1960年代に泥水式や土圧式の密閉型推進工法が開発され、曲線施工や長距離施工、適用土質の拡大など技術的に進化して拡大する地下インフラ整備のニーズに応えてきました。
 このような歴史を刻んで我が国の地下インフラの第一次整備は20世紀末でほぼ完成の域に到達します。
 その後都市部では新たなニーズが生まれています。当時埋設された管路が老朽化し、またゲリラ豪雨など地球温暖化による浸水被害が毎年発生するようになり、増補幹線やバイパス管路、浸水対策管路などを新たに都市部に敷設する必要性が発生しました。
 その際に大きな課題となるのが一次整備時に地中に残置された仮設杭や土留め壁です。
 戦前までは軍備拡張の国是により鉄の価値が高く、地中残置はほぼ皆無でしたが、高度経済成長時から人件費のほうが鉄より高くなり、鋼矢板や杭を抜いた後の周辺への影響を考慮して残置するというケースが増えてきました。また推進工法では切断した鏡部下部の根入れ部分の鋼矢板やH鋼杭は必然的に残置されます。中間支持杭などの仮設杭も施工手順によっては下部が残置されます。
 このように残置された鋼製材が21世紀の都市部の二次整備(再構築)の課題としてクローズアップされています。
 また、一次整備時でも課題となっていた流木・転石なども引き続き地中障害物として存在します。本特集号はこの地中障害物の特集です。様々な種類の障害物に対して、当初は地上からの除去という方法しかありませんでした。しかし2010年代から様々なやり方でこの障害物を地中から除去・貫通させる技術が出現しています。そのような最新技術の施工事例を本特集号で紹介します。
 また、障害物除去の前に、いかにして障害物の位置・種別・数量を確定させるかの調査・探査の技術も重要であり、あわせて紹介させていただきます。
 今年の八潮道路陥没事故の反省として水替えが困難な幹線は複線化するなど、今後は下水管路にリダンダンシーが求められるようになり、都市部での管路築造のニーズは増加しそうです。輻輳する都市部地下での非開削施工では、地中障害物対策は避けて通れない課題であり、今後のますますの発展が望まれるところです。(編集担当:林茂郎)

巻頭言 推進業界が必要不可欠な存在であり続けるには
請川 誠
戸田建設㈱ 常務執行役員 土木技術統轄部統轄部長
(公社)日本推進技術協会理事
今月の推論 DX への加速化を! ~あなたの取り組みはどの段階ですか?~
智恵須 納人
総 論 推進工法設計・施工時のトラブル対応
千葉 智晴
㈱日水コン コンサルティング本部 下水道事業部
東部計画管路部技術第四課 チーフエンジニア
地中障害物対策を取り入れた 大中口径管推進工法の設計事例について
袖山 弘
㈱三水コンサルタント 東日本事業部技術第二部 部長代理
解 説 乱された地盤から発進し、支障物切削した施工事例 桜島~酉島幹線下水管渠築造工事
伊丹 佑介
大阪市建設局 北部方面管理事務所管理課
亀川 安之
㈱森本組 桜島~酉島幹線作業所所長
平井 覚
ヤスダエンジニアリング㈱ 工事部工事係長
切羽障害物(残置鋼材、玉石、流木等)を掘進機内から撤去
─ CMT 切羽障害物除去システム─

木下 貴義
CMT 工法協会 技術担当
岡村 道夫
CMT 工法協会 広報担当
ベビーモール工法を使用した様々な地中障害物に対する対応
黒木 将則
サン開発工事㈱ 工事部・課長
地中障害物切断における二重ケーシング方式の適用
篠木 拓哉
SH スーパー工法協会技術員
地下埋設物探査のパイオニアとして
板坂 浩二
アイレック技建㈱ 設備診断再生本部長
地下構造物・基礎杭および埋設・埋没鉄類調査
梅原 弘樹
大和探査技術㈱ 東京支店技術部係長
地中障害物の探査方法 電磁誘導法と地中探査レーダの違い
パッション・アダム
高千穂産業㈱ 貿易部取締役貿易部長
トピックス 下水道展’25 大阪取材レポート
随 筆 くだけた話
重盛 俊樹
ベビーモール協会事務局長
ゆうぞうさんの山紀行 第115回 金ヶ岳・茅ヶ岳縦走
藤代 裕三
元横浜市下水道局

 

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