多様な断面

2024年2月号 多様な断面を構築する推進工法

 都市部の下水道整備は土地利用の高度化に伴い、用地の確保や交通事情などから非開削工法のニーズが高まり、それに呼応すべく推進技術は発展してきました。
 この下水道に適したトンネル断面は土圧等の外圧に対する抵抗性や管内水理特性から円形が有利とされ、開削工法でも円形管が用いられてきました。推進工法の場合はカッタヘッドの回転で地山掘削できることが円形管の適用に対し合理性があるため、機械式密閉型掘進機が主流となりました。このような経緯から水道や電力、ガス、通信などの他の地下インフラ網も円形管路が主体となっています。
 しかし非開削トンネルのその他の用途では必ずしも円形断面が最適でない場合があります。人や車両が通行する地下道やアンダーパスは床面が平らな矩形や馬蹄形などの非円形断面の方が用途、ニーズに合致します。
 矩形断面のトンネルは開放型刃口工法でボックスカルバートを敷設する方法や、円形小断面のパイプルーフを組み合わせて内部に支保工を掛けながら掘削して矩形の大断面トンネルを構築する方法から始まりました。断面の大きさや断面と延長との比率などで上記ふたつの技術は使い分けられています。
 その後パイプルーフ工法は矩形小断面刃口工法で先行エレメントを複数貫通させ、そのエレメントごと後方から大断面の矩形躯体で置き換えるエレメント牽引工法やエレメント推進工法、函体牽引工法等に進化しています。
 また、現在は直接矩形掘削ができる機構を装備した特殊な掘進機が矩形シールド機の後を追うように技術開発され、直接ボックスカルバートを地中圧入できる函体推進工法の技術も確立しています。この場合は完成後の供用に支障をきたさないための函体ローリング修正が重要な技術ポイントとなります。
 また、矩形セグメントに比べ断面一体型で製造されるボックスカルバートは断面方向に継手が無く、躯体強度に優れるため壁厚の薄肉化やコスト面で有利であり、セグメント組立には必須の複雑な動作を必要とするエレクターも不要であるため施工費も有利になります。
 今月号は2021年以来3年ぶりに「多様な断面」の特集を組みました。
 様々な方法で非開削矩形トンネルを完成させる掘削~構築技術の最新事例の紹介や、矩形トンネルの躯体となるボックスカルバート等の函体製造に係る技術を集めてみました。
 特に函体については開削用と推進用のボックスカルバート(エレメント)の構造(継手部)の違いや技術の変遷などについて解説していただきます。
 トンネルの施工コストは円形断面に比べ矩形断面はまだまだ高価ではありますが、輻輳する都市部の地下では地中占用面積の効率化は避けて通れない課題であり、その際は本編で特集した技術が採用されています。今後の都市インフラ再構築には必要な技術であり、今後のますますの発展が望まれるところです。(編集担当:林茂郎)

 

巻頭言 逆鱗
中川 喜久治
中川ヒューム管工業㈱ 代表取締役社長
(公社)日本推進技術協会理事
総 論 線路下横断構造物
仲山 貴司
(公財)鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 トンネル研究室主任研究員
三輪 陽彦
(公財)鉄道総合技術研究所 構造物技術研究部 トンネル研究室副主任研究員
解 説 多様なトンネル断面を函体推進・けん引工法で構築
中村 智哉
アンダーパス技術協会事務局長
植村技研工業㈱次長兼営業部長
JES工法における多様な構造形式(断面形状)の
施工技術と施工事例の紹介

本柳  亮
鉄建建設㈱ 土木本部地下・基礎技術部
ボックス推進工法のメカニズムと大断面地下通路構築事例
松元 文彦
(一社)ボックス推進工法技術協会 会長(技術士 RCCM)
多様な断面、多様な条件下で利用されるパイプルーフ施工技術
~地中を支える技術アンクルモールパイプルーフ工法~

佐藤  徹
㈱イセキ開発工機 海外営業部
(本誌編集委員)
さくさくJAWS工法による馬蹄形大断面の地下駅空間の構築
茶木 勇太
戸田建設㈱ 技術研究所 社会基盤構築部地下土木課係員
下津 達也
(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構 東京支社計画課課長
田中  孝
戸田建設㈱ 技術研究所 社会基盤構築部部長
田中 宏典
戸田建設㈱ 技術研究所 社会基盤構築部地下土木課主管
プレキャストPC桁を用いた非開削工法PCR工法の施工方法
丸山 芳之
日本ケーモー工事㈱ 工事部取締役工事部長
神谷 卓伸
オリエンタル白石㈱ 本社技術本部・担当副部長
都市部地下狭隘地における大断面推進工法用ボックスカルバートへの挑戦
後藤 伴行
ベルテクス㈱ 技術本部開発部 東京開発グループ
ボックス推進工法用
鋼・コンクリート合成ボックスカルバート(B-MAX)の開発㈱建設技研インターナショナルの海外展開活動

平尾 慎也
㈱建設技研インターナショナル都市インフラ部
技術寄稿 推進施工時における異なる断面の地盤変状への影響
島田 英樹
九州大学大学院 工学研究院教授
笹岡 孝司
九州大学大学院 工学研究院准教授
濵中 晃弘
九州大学大学院 工学研究院助教
随 筆 話題のインフラツアーに参加12
~関越トンネル~

山口 雅永
長野油機㈱ 製造部資材課
ゆうぞうさんの山紀行 第96回 雪の高尾山
藤代 裕三
俳句会便り 第八十六回 中本郷顔記念「東雛」俳句会便り

 

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