泥濃式

2023年6月号 泥濃式推進工法の応用・発展

 今泥濃式推進工法は、呼び径800~1500のサイズでは国内最多のシェアを占める工法となっています。これには下記のような歴史があると聞いています。
 密閉式の泥水式・土圧式は1960年代後半から下水道等の管路整備に適用されるようになりましたが、これら先発の工法でも苦手な分野がありました。それは100mmを超えるサイズの巨礫でした。巨礫が出現すると当時の掘進機の性能では、いとも簡単に掘進停止に追い込まれたのです。
 カッタヘッドにローラビットを搭載し、機内にはクラッシャーを装備する、軸抜きのリボンスクリュを採用して機内取込み礫径の拡大を図るなど、シールド工法に準じた対策で対応していましたが、シールドマシンに比べサイズが半分以下の推進工法用掘進機ではこれらの装備を持ってしても巨礫の機内取込みには時間が掛かり、切羽土砂の取り込み過多が発生する場合もありました。
 1970年代の後半に開発された泥濃式推進工法は、空気圧で開閉するピンチバルブを用いて200~500mmの巨礫を破砕せず丸飲みするという画期的なシステムを搭載して推進業界に現れました。
 土圧式掘進機によく似た形式の泥濃式掘進機でしたが、ピンチバルブはスクリュコンベヤのようにチャンバ内土砂の掻き出し能力はありません。チャンバ内土砂の流動性をかなり高め、圧力差でピンチバルブを通過させなければなりません。必然的にチャンバ内土圧は泥水式や土圧式のように一定ではない間欠排土となります。チャンバ内土圧が下がりすぎると地表面陥没を引き起こすので、設定した範囲内でチャンバ内土圧を管理する必要があります。そのためにピンチバルブの操作はかなりの技量・集中力の持続性が要求されます。土被りが小さくなるほど、大口径になるほど陥没リスクは倍増します。
 その他泥濃式はピンチバルブ以外に、固結型滑材を管周上半に注入するテールボイド保持の新しい考え方や、後発のため鋼殻設計に新しい発想が投入できたため、それまで成しえなかったレベルの長距離・急曲線施工を可能にしました。
 これらの魅力が大きかったため、陥没リスクは先発2工法より大きくても泥濃式が普及したものと思われます。
 1990年代に数多くの泥濃式工法協会誕生し、競合したお陰で様々な技術開発が進み、実績を積み重ねています。
 今月号では「泥濃式の応用・発展編」として各工法協会の最新の技術・事例を掲載します。泥濃式を含め日本の推進技術は物理的な要求ニーズをほぼ網羅し、世界のトップレベルに達していると思われますが、今後の新たな技術開発の種を本特集号から探っていただき、更なる推進技術の発展を期待したいものです。
(編集担当:林茂郎)

巻頭言 ネバーギブアップ
安田 京一
ヤスダエンジニアリング㈱代表取締役
(公社)日本推進技術協会理事
今月の推論 人間中心のAI社会
肝試し
総 論 泥濃式推進工法の概要と施工管理手法について
佐藤 大輔
(公社)日本推進技術協会 技術委員会大中口径部会
(エクシオグループ㈱土木事業本部土木営業部門)
特 集 超泥水加圧推進工法における長距離・多曲線施工事例
吉田 孝治
超泥水加圧推進協会事務局
長距離・急曲線・複合地盤に優位性の高い泥濃式(超流バランス式)推進工法
伏木 裕一
㈱アルファシビルエンジニアリング 関東支店工事部次長
貞永 桂子
㈱アルファシビルエンジニアリング 技術部課長代理
森田  智
㈱アルファシビルエンジニアリング 技術部部長
泥濃式ヒューム管推進工法の特徴と施工事例
大島 義信
ヒューム管&ベルスタ推進工法協会 事務局長
磯部  健
太洋基礎工業㈱ 名古屋支店工事部部長
様々な土質や条件に適応した泥濃式ラムサス工法とSmart犀工法
森 勇二
ラムサス工法協会 事務局技術営業課長
鳥居 篤
サン・シールド㈱ 工事部副部長
難土質に立ち向かう泥濃式エスエスモール工法
脇田 清司
㈱ウイングス 代表取締役(ジオリード協会会長)
技術革新を求め進化するハイブリッドモール工法 圧送ポンプによる排泥制御
武村  秀
アイレック技建㈱ 非開削推進事業本部
泥濃式の掘進管理に対する新しい試み エコスピードシールド(ESS)工法
檜皮 安弘
ESS工法協会 事務局 技術・積算
随 筆 動機づけを高める具体的な言葉がけ
橋本 和幸
了德寺大学 教養部教授
ゆうぞうさんの山紀行 第88 回 房総烏場山花嫁街道
藤代 裕三

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