我が国における推進工法は世界に冠たる技術であり、他国では施工が困難あるいは到底考えられないような施工事例が数多くあります。そのような技術困難な施工には必然的にトラブルの発生要素が潜在し、従来と同じ施工管理のままでは本来安全で安心な施工技術である推進工法においても、施工中の災害あるいは施工後の第三者災害を含む様々なリスクがあります。推進工法は時々刻々状況が変化し、それに対して的確な判断と対応が要求される工法であるため、すべての施工現場で微細なトラブルをも皆無にすることは不可能に近いと思われますが、少なくとも事前検討を十分に行い施工計画と現場における安全(施工)管理を厳格に行うことによって、推進工法に関わる施工中や施工後の災害事故は防止しなければなりません。推進工法初期の刃口推進全盛時代での工法特有の災害としては、開放切羽の崩壊に起因する災害と酸欠を含む有害ガスに起因する災害が多くありましたが、機械式密閉型工法が主流の現代においては高水圧(大深度)施工の増加も相まって、排土口からの噴発や推進管継ぎ手部からの漏水および土砂の流入、発進到達の鏡部開放時の崩壊などに起因する災害が多く見受けられます。有害ガス災害は排土口とともに推進管継ぎ手部からの漏出が原因となるケースも増加しているようです。
このように施工形態の変化によって起こりうる災害も変化しており、現状の施工形態、施工環境などを考慮した安全基準や対策を検討しなければならないと考えます。刃口式推進全盛期の昭和50年(1975年)の労働省基発第204号下水道整備工事、電気通信施設建設工事等における労働災害の防止についての中に「人力掘削による推進工法においては酸素欠乏症防止規則、坑内労働規程等を遵守させるとともに、当面内径80cm以上のヒューム管やさや管等を使用するよう努めさせる」という記述があり、これを基に現在でも呼び径800以上は坑内作業が可能な中大口径でそれ以下は坑内作業不可の小口径という線引きになっています。しかし、現代では1スパン1Kmの長距離施工や0.2Mpa以上の高水圧下での施工など、その当時では想定されていなかった条件下での施工が行われています。当然のことながら坑内作業の安全確保のみならず、万一の場合の作業員の避難方法や現状の施工に合わせた安全基準が論議されるべきです。
また、推進工事現場においても建設工事全般における三大災害である「墜落・転落災害」「建設機械・クレーン等災害」「崩落・倒壊災害」をはじめとする各種の労働災害および事故も発生しており、災害事故の撲滅にはまだまだやらなければならないことが多くあると思われます。
今月号の特集テーマは「安全で安心な推進技術であるために」ということで、現状の推進技術の施工を念頭にあるべき安全管理の姿や、施工後に見受けられる第三者災害(陥没や路面変状など)の防止も含めて様々な立場からご意見をいただきたいと考えます。また、これを機会に将来の無人化施工や推進管理のデジタル化を見据えた方策なども提案していただければより充実した安全特集になると思われます。
(編集担当:中野正明・稲葉富男)
巻頭言 | 労働環境の改善を 瀬谷 陽一 ㈱常磐ボーリング会長 (公社)日本推進技術協会理事 |
今月の推論 | 賃金停滞の原因と対策 時来りて語る者 |
総 論 | 計画・設計段階における公衆災害や労働災害回避、作業環境改善の取り組み 田口 由明 ㈱エイト日本技術開発執行役員防災保全事業部長 (本誌編集委員) |
計画・設計段階における災害リスク回避に向けた取組み 黒羽根 能生 横浜市環境創造局管路整備課長 善見 憲二 横浜市環境創造局管路整備課担当係長 小野寺 正純 横浜市環境創造局管路整備課 |
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非開削事業における安全対策の特異性 酒井 栄治 ㈱アルファシビルエンジニアリング代表取締役社長 DR.ENG.博士(工学) 技術士(建設部門:トンネル) |
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特 集 | 推進工事における公衆災害等防止の取り組み 桶川 宏司 ㈱鴻池組土木事業総轄本部技術本部土木技術部部長 |
全で安心な推進工法であるための方策 片山 孝司 機動建設工業㈱安全環境部長 |
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推進工事の安全・安心への課題求められる技術開発 富田 昌晴 ヤスダエンジニアリング㈱建設事業本部技術開発部部長 |
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小口径管推進工事を取り巻く作業環境の変化 加藤 友康 地建興業㈱第二工事課 |
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推進専門業者としての事前安全活動とリスク対策 村田 篤 ㈱アルファシビルエンジニアリング安全協議会 副長 |
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ICT活用で安全・安心な推進技術 茂木 清顕 ㈱アクティオAP部部長(本誌編集委員) 稲葉 富男 ㈱ラポールシステム(本誌編集委員) |
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随 筆 | 建設業界の魅力 岩田 あゆみ 青木あすなろ建設㈱大阪土木本店工事第一部 |
ゆうぞうさんの山紀行 | 第78回 北穂高岳再挑戦 藤代 裕三 |
俳句会便り | 第八十回 中本郷顔記念「東雛」俳句会だより |