推進工事70年の歴史の中で、ここ十数年の技術革新には覚醒の感があります。
かつて、呼び径3000を超える工事や長距離・曲線施工は、周面摩擦抵抗と測量等の技術的な隘路から、シールド工法が担ってきた経緯があります。
しかし、現在では貯留管や雨水増強管等のニーズを受けて、呼び径5000までの推進管が規格化されるとともに、推進技術や滑材等の周辺技術、管材、計測技術等の開発と改良を重ね、1スパンが1,500mの長距離推進や、曲線半径R=20~30mのS字曲線や複合曲線施工も可能とし、シールド工法とのボーダレスの時代に入り、長距離推進施工のシェアが拡大しています。また、小口径管においても同様に、高耐荷力管推進では300m、低耐荷力管推進においても100mを超える施工実績があります。
これら推進距離の飛躍的な伸びは、掘進機(先導体)や軸方向耐荷力が大きく、かつ曲線にも対応可能な多種多様な推進管の開発をはじめ、元押および中押装置、推進力低減措置としての滑材と注入方式、曲線施工への計測技術の改良や開発、さらにはこれらを包括する遠隔制御等の高度な施工技術革新の積み重ねによって可能としてきたものです。また、同時に、施工実績から得られた知見に基づき、(公社)日本推進技術協会において、曲線推進や泥水式・土圧(泥土圧)式、泥濃式等の推進力算定式の整理を行ったことが、ユーザ側における長距離推進の信頼度を増し、長距離推進施工の採用を浸透・加速したものと思われます。
反面、長距離推進施工では、地層の変化のほかに、事前調査では把握できない事項も多く介在しています。推進工法では一般に、施工途中での中断は推進力の増大を来たすために時間的な制約が伴い、かつ補助工法の採用にも選択肢が限られていること等からリスクを背負うことになります。確かに従前との比較では、管内作業の省力化とシステム化が図られ、また、計測技術が格段に進化し、安全・確実性が確保され信頼度も高まりつつあります。しかし、これまでのところ、掘削方式によって多少の差はあるものの、大中口径管推進施工では長距離推進の如何にかかわらず、狭い管内空間での常態的な作業が伴い、完全な無人化作業に至っていません。したがって、安全性の担保と作業環境の保全が求められます。
長距離推進施工は、本誌の事例報告等で度々紹介され、また、Vol.28 No.2(2014年2月号)特集「長距離推進のゆくえ~長距離推進を可能とした各分野における技術革新~」として取り上げられた古くて新しいテーマです。
本特集では、大中口径管および小口径管推進の長距離化に向けて、管材や掘進機(先導体)をはじめ各分野における最新の取り組み状況と併せて、推進力の低減方法、排土や計測技術等に関する様々な工夫と配慮すべき事項、安全管理上の留意点等、幅広く言及していただいています。
今後、長距離推進を採用される自治体やコンサルタント職員にとって、これらを設計図書に反映していただくことにより、さらなる安全の確保と併せ、適正な工事費積算の一助となれば幸甚です。
(編集担当:阿部勝男)
巻頭言 | 「働き方改革」で若い力に技術の伝承を 大豊建設(株)東京支店土木営業部部長(当協会理事) 小坂 浩 |
今月の推論 | 「時勢・時局」と下水道インフラ 北極星 |
総 論 | 長距離施工技術の変遷と推進工法の特長を活かした安全施工の留意点 (公社)日本推進技術協会技術部長 川合 孝 |
解 説 | アルティミット滑材充填システムにより長距離推進を実現 機動建設工業(株)土木本部技術課 須藤 洋 |
超流バランスセミシールド工法における長距離施工の実態 (株)アルファシビルエンジニアリング施工本部技術部長 森田 智 |
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泥濃式エスエスモール工法における長距離施工の変遷 ジオリード協会事務局長 新川 大一 |
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CMT工法による超長距離推進 CMT工法協会 木下 貴義 |
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多様なニーズに技術で応え進化するエースモール工法 エースモール工法協会技術委員 |
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スピーダー工法、スピーダーパス工法の長距離推進について スピーダー協会 大石 真樹 |
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世界初のシステムで!!250mの塩ビ曲線推進を可能にしたベル工法 ベル工法協会技術委員 谷崎 秀揮 |
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長距離推進工法に対しヒューム管メーカがすべきこと 日本ヒューム(株)常務取締役技術本部長兼工事本部長 朝妻 雅博 |
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長距離推進を可能とした高強度推進管 栗本コンクリート工業(株)大阪営業所 池川 直毅 |
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推進長距離施工と測量技術 (株)ソーキ顧問(本誌編集参与) 稲葉 富男 |
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随 筆 | 推進工事の魅力 ヤスダエンジニアリング(株)関東支店工事部 谷之木 良太 |
先達に学ぶ温故知新 | 第三回 推進に出会い50年 その3 前(株)推研代表取締役会長 蒲田 洋 |
ゆうぞうさんの山紀行 | 第22回 冬至の金時山 藤代 裕三 |
年間総目次 | 2017年 Vol.31(平成29年1月号~12月号) |