私たちが生活するうえで必要不可欠な上下水道、電気、ガス、通信等のライフライン設備のほとんどが道路下に埋設されており、下水道設備は約46万km、水道設備は約64万kmで膨大な設備量(ストック)となっています。さらに都市部においては、地下鉄、道路等の交通網や地下街等の商業施設も地下空間を利用していることもあり、地下空間は極度の過密状態にあります。
このような状況において東京都、神奈川県、大阪府等の大都市部における下水道処理人口普及率は、95%以上となっており、水道普及率もほぼ100%となっています。しかし、近年のゲリラ豪雨の増加や市街地の進展等により雨水の排除能力を超える雨水流出が頻繁に発生しており、都市浸水による市民生活への被害が増大しています。
国土交通省では浸水被害を最小に止めるために地方公共団体と一体となった総合的な浸水対策を推進しています。ハード面の対策の一つとして雨水管路施設の増補、バイパス管による既設管路の増強及び貯留管・貯留施設の新設等を重点施策として掲げており、都市部では地下空間の埋設物等の輻輳により開削による管路の敷設は困難であるため、非開削工法のニーズが今後も高くなってきます。
これまでも、非開削工法による管路の敷設方法として、トンネルの先端に設けられたシールドと呼ばれる鋼製の円筒の中でセグメントを組み立てながら掘削を進めて行く「シールド工法」と発進立坑に設置したジャッキで管を到達立坑まで押し込んでいく「推進工法」が採用されていました。シールド工法は1940年頃から使用されはじめ、60年代後半に泥水式、土圧式等の密閉型工法の開発により飛躍的な発展を遂げました。一方、推進工法が国内で初めて採用されたのは、1948年に国鉄尼崎港線の軌道下横断のガス工事で、その後、密閉型推進工法、小口径管推進工法が開発されました。さらに近年では推進工法の長距離化及び増径化に拍車がかかり、これまで推進距離及び推進管径等によりシールド工法の領域とされてきた工事へも推進工法の適用領域が大きく広がってきました。
このような背景から、狭隘で急曲線施工等の厳しい施工環境への対応、施工期間の短縮及び施工コストの低減を可能とするためにシールド工法と推進工法の長所を融合させた『推進・シールド切換型工法』が広く採用されています。
本号では、多様な施工条件への対応を可能とした『推進・シールド切換型工法』の開発経緯、技術の改良、設計採用の背景及び発注者からみた技術要望等を紹介することで今後の普及拡大を期待しております。
(編集担当:前田公洋)
巻頭言 | 予測することの大切さ (株)常磐ボーリング会長(当協会理事) 瀬谷 陽一 |
今月の推論 | 陳情の極意 全日本発注者団体連合協議会副会長 |
総 論 | 推進・シールド切換型工法の課題 (公社)日本推進技術協会技術部長 望月 崇 |
解 説 | 推進・シールド切換型工法の施工事例 兵庫県明石市魚住町の浸水対策 明石市下水道部下水道建設課工事第1係技術職員 吉川 大智 |
推進・シールド切換型工法の開発経緯と施工条件に応じた適用事例 (株)奥村組東日本支社土木技術部技術2課長 木下 茂樹 |
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急曲線・防爆・大土被り(H=25m以上)での「シールド切替型推進工法」の取り組み デュアルシールド工法協会事務局長 中村 浩 |
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推進工法とシールド工法の融合により経済性・確実性・安全性を追求したエコスピードシールド(ESS)工法 ESS工法協会事務局 技術・積算 檜皮 安弘 |
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地中送電線FS(複合システム)推進工法について 栗原工業(株)工務本部地中線・土木グループ課長 米田 晃 |
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推進工法とシールド工法を融合した泥水式バサロシールド(Vassallo shield)工法 バサロシールド工法協会事務局長 須田 浩司 |
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随 筆 | くだけた話 ベビーモール協会事務局 重盛 俊樹 |
今さら聞けない 推進技術の豆知識 |
第11回 土被りが浅い(小さい)場合、何か問題ありますか? 推進豆博士 |