我が国では、経済発展とともに、都市の地下には、上下水道、ガス、電気、通信等のライフラインが縦横に敷設され、さらに鉄道、道路、共同溝など極めて重要な構造物が地下空間に多く建設されている。しかし、経済活動や人々の生活の質の変化とともにますます都市が高密度化する中で、社会・経済活動においてより機能的で、また安全で安心して暮らせる都市づくりが求められている。都市は、施設の機能を維持しながら過去に建設された建築物・構造物等を新陳代謝し、さらに新しい防災施設やライフライン等の施設を建設することによりさらにその機能を高めていく必要がある。
地下にパイプラインを敷設する場合、開削工法よりも交通障害や工事に伴う周辺環境への影響を低減できる推進工法やシールド工法が用いられる。これらのトンネル築造技術は、特に我が国において、長距離、急曲線、大深度(大土被り)施工等の技術開発が進み、世界的に最も高度な技術に進歩した。
我が国では現在、インフラ施設の整備が進み、地下空間に敷設、建設されたパイプラインや構造物の維持更新の時代に入りつつある。しかしながら、近年頻繁に発生する局所的な集中豪雨による浸水対策や、想定される大地震への対策など防災機能をより強化するための都市づくりの事業が進められており、地下にはまだまだ多くのインフラ施設の建設が必要である。
これら事業の遂行において、トンネル工事の立坑を築造するためには、各種地下埋設物が輻輳化している都市部では埋設物の切り回しや防護が必要であり、経済的また工期的な負担だけでなく極めて施工が困難となる場合がある。また、交通量から規制が困難な道路や、工事の振動、騒音などが周辺環境に及ぼす影響から立坑の設置が困難な場合がある。このようなことから、近年、立坑を設置することなく、マンホール、管きょおよび建築物等の既設構造物に掘進機を直接到達させ管路を構築する工事が増えている。
直接到達する方法は、既設構造物に開口部を設けることに対する構造物の補強方法、接合部の接合構造、また、掘進機が安全に到達するための地盤改良等の補助工法、あるいは掘進機の回収方法など技術的な課題は多い。
しかし、既設構造物への直接到達は、交通障害および周辺環境に対する影響の低減だけでなく、既設埋設物の回避によるコスト縮減や工期短縮、あるいは、到達立坑の省略によるコスト縮減効果が見込める可能性もある。さらに、掘削残土量の低減による廃棄物発生量の低減等を図ることも考えられる。
このように立坑を設けることなく既設構造物に直接到達することが容易になれば、推進工法の適用性が飛躍的に拡大することが期待できる。今月の特集は、このように既設構造物に直接到達する工事が近年増えつつあり、その中でも特に施工方法や掘進機の対応等に焦点をあて、施工事例を紹介するとともに技術の現状と課題について報告する。
(編集担当:西口公二)
巻頭言 | 海外で実感できる仕事の誇り 地建興業(株)代表取締役社長 |
今月の推論 | 環境の変化は待ってくれない ~ソメイヨシノの老化と空き家の増加に思う~ 傍若無人 |
総 論 | 既設構造物への直接接続に関する設計時の留意点 (株)エイト日本技術開発東京支社副支社長兼統括技術部長(本誌編集委員) 田口 由明 |
推進工法の既設構造物への到達に関する計画設計上の留意点 横浜市環境創造局管路整備課担当係長 高橋 悠太 横浜市環境創造局管路整備課 望月 昭秀 横浜市環境創造局下水道建設事務所 宮崎 晃一 |
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解 説 | 泥濃式推進工事での到達方法の多様化と技術向上 ~分解回収型エスエスモール~ ジオリード協会事務局長 新川 大一 |
到達時の安全性と敷設管路の品質確保 ~超泥水加圧推進工法~ 超泥水加圧推進協会技術広報委員 肱黒 秀樹 |
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既設構造物へ直接到達させるためのアプローチ ツーウェイ推進工法協会技術員 竹内 貴亮 |
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アパッチ工法とミリングモール工法による直接到達事例 ヤスダエンジニアリング(株) 大川 哲夫 |
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既設シールドおよび既設マンホールへの到達事例 パイプリターン工法協会事務局長 秦 勝則 |
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随 筆 | これから建設業界を目指す若者へのメッセージ 日特建設(株)事業部工事部工事課 金山 将志 |
今さら聞けない 推進技術の豆知識 |
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